動物のお医者さん 雑記

獣医師が考える、災害に備えてこれだけはやって欲しい5つのこと

日頃、動物病院で働く者として、この1カ月足らずの間に実際に地震に関して見聞きしたことをもとに、これだけはやっておいて欲しいなと感じたことをまとめてみました。(主に犬猫中心とした話です。)

1. マイクロチップ&迷子札&狂犬病予防接種の鑑札・注射済票の装着

今回、被災地から遠く離れた場所でも、地震の揺れに驚いて外に飛び出してしまったわんにゃんがたくさんいました。
運良く心ある人に保護されたとしても、飼い主への連絡先がわからないと再会が難しい場合もあります。また、保健所に引き取られた場合には文字通り命綱になることだってあり得るのです。

  • マイクロチップ

ちょっと大きめの注射みたいな感じで、主に左右の肩甲骨の間にチップを装着、データ管理機関に登録します。多くの動物病院で比較的容易に行えます。(要事前確認)
環境省_マイクロチップをいれていますか? [動物の愛護と適切な管理]

メリット: 体内にあるので無くなったりすることがない。

デメリット: 読み取る機械が動物病院など特定の施設にしかない、申請時から連絡先が変更していたりして確実性に欠けることがある。

  • 迷子札

首輪などに連絡先を着けておく方法。お洒落な物から、首輪の裏側にマジックで書いておく裏ワザまで様々。

メリット:誰が見てもすぐわかるので、早く・確実に連絡を取ることができる。

デメリット:外れたり消えたりしやすい、個人情報流出のおそれがある。

  • 狂犬病予防接種の鑑札・注射済票

この2つは法律により着用が義務付けられています。飼い犬には犬鑑札と狂犬病予防注射済票を着用してください | 立川市
鑑札(基本的に一生に一度)には初めに登録した際の番号が、注射済票(年度ごとに更新)にはその年度に注射した際の番号が記されています。

メリット:確実性の高い情報を得ることができる。
→狂犬病ワクチンを注射すること自体はすぐに終わりますが、実は裏側ではその準備と煩雑な手続きにかなりの人員と手間を割いています。マイクロチップ以上の情報量を毎年確認しながら打っているので確実性は高いと思われます。

デメリット:見た目が可愛くない、着けると邪魔そう。
→地域によっては可愛いものもありますが、こういった鑑札入れを使うとあまり邪魔にならなくて良いかもしれませんね。

日本では狂犬病は過去の病気になりつつありますが、多くの国で蔓延している最も怖い伝染病の1つです。公衆衛生の観点からも、ワクチン接種は重要です。
予防接種前の健康診断で異常が見つかる子も多いので、体調面や年齢等で不安がある方は動物病院で聞かれてみると良いですよ。

2. シミュレーション

「もし災害が起きた場合に、この子とどう避難するか?」をイメージすることが大切です。
多頭飼いの場合は?持病がある場合は?性格的には?等々、いろんな疑問が出てくると思います。
時にはかかりつけ医の指示を仰ぎながら、日頃からの備えをしっかりやっておきたいですね。

3. フードや常備薬のローリングストック

療法食や食の選り好みが激しい子は特に、2週間~1ヶ月程度の備蓄は持っておきたいところです。
いま食べているフード+未開封のが1袋くらいあれば大丈夫だとは思いますが、飽きっぽい子や缶詰め派の子達は臨機応変に準備しておく必要があると思います。

また心臓や肝臓に疾患がある子やてんかん発作を起こす子など、薬が手放せない子達は可能であるなら余裕を持ってお薬を持っておけないか主治医に相談されてみてください。
被災地の動物病院ではこういった類の薬から足りなくなっている印象でした。
ただし、病態によっては薬を多めに出せない場合もあるので、くれぐれも獣医師の指示のもとに用意されてくださいね。

4. クレートトレーニング

「動物病院に行こうと思って、いざケージ(クレート)を出してみると、嫌がってなかなか入ってくれない」というのは良く耳にする話。日頃からケージに慣れる訓練が必要です。
しつけ本のなかでも、私のおすすめはこちら。業界内でも有名な先生が書かれています。

こころのワクチン (Parade books)

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  • 作者:村田 香織
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ケージの種類は、その子が落ち着けるものが一番ですが、おすすめを挙げるのであれば、

①ケージの横と上が開く(自分で入ったり、人が上から入れたりできる)

②ケージの上半分が取り外し可能(中から出てこなかったときに引っ張り出したり逆さまにしたりしなくて済む、掃除しやすい)

③プラスチック製(汚れたときに容易に拭いたり洗うことができる)

の3点を満たすものです。可愛くはないですが、こういった形のものが実用的。

5. 薬や治療内容の簡単な把握

災害時において、いつものかかりつけがいつも通り診察しているとは限りません。また、事情によってはどこかに預けたりして飼い主と離れる可能性もあります。

その際用意してあると助かるのが、ワクチンやフィラリア症の予防歴や、既往歴、常備薬等を記録してあるもの。

病歴が長い方などは、万一に備えて今までの治療経過を簡単にまとめたものを動物病院で作成してもらえないか聞いてみるのも良いかもしれません。
(作成にかかる時間や料金をあらかじめ電話で聞いておくことをお勧めします。)

番外編: あると便利なエリザベスカラー&口輪

もしケガをしてしまった場合にカラーがあると傷口を舐めて悪化するリスクが減らせます。環境の変化等によるストレスで自傷を起こす場合にも効果的です。

また、口輪があると誤食や吠えたり噛みついたりといった行動を抑止することができます。口輪と言うと物々しい雰囲気ですが、こういったちょっと愉快な見た目なものもあります。
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カラーや口輪自体が動物にとってストレスになる場合もあるので、一概にお勧めすることはできませんが、平常時とは違う環境の中、不特定多数の人が出入りする場面において不測の事態や不慮の事故を防ぐという意味では検討しておいて欲しい物です。

でも1番はあなたが落ち着くこと

今回、たくさんの飼い主さん達に地震が起こった当時の状況を聞くことができたのですが、一番多かった話は意外にも「地震自体にはそこまで反応しなかったけど、周りの慌てている様子を見てようやく何か気付いたようだ。」という内容でした。

震度の関係や、質問の対象が病気や高齢の子に多かったことも影響しているとは思いますが、家庭にいる動物達は、私達が思っているよりもずっと人を見て状況を判断しているのかもしれませんね。

大切な家族のために日頃から何をしてあげられるか、一度考えみてはいかがでしょうか。
(※動物病院でじっくり相談されたい方は事前に連絡しておくことをお勧めします。)

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